Interview - 過去学び、今生きる -

新型コロナウイルスへの提言

新型コロナウイルスという恐怖 〜 専門医が見たパンデミック
  • 大阪大学医学部附属病院 感染症内科 診療科長
  • 大阪大学大学院医学系研究科感染制御医学講座(感染制御学)教授
忽那 賢志(くつな さとし)

ダイヤモンド・プリンセス号のコロナ患者など、パンデミック初期から数多くの患者の治療にあたってきた忽那賢志医師。通常のウイルス性肺炎とは異なる様々な症状に恐怖も感じるなか、海外の論文を日々読みあさり、少しでも有効と思われる治療法を探しては実践していったという。 2000年以降、SARSや新型インフルエンザ、エボラ出血熱など様々な新興感染症が発生し「新興感染症の時代」の真っ只中にあるいま、医療者全体の感染症の知識の底上げすることが急務と指摘する忽那医師。さらに、ふたたびパンデミックになったとき、緊急事態宣言などで社会活動をどこまで止めてよいのか、「平時」であるいまこそ議論し、次のパンデミックで「何を大切にすべきか」「負担のバランスをどうとるのか」社会全体で考えておくべきだと語る。

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福岡県出身。2004年 山口大学医学部卒業、国立病院機構関門医療センター初期研修医、2006年 山口大学医学部附属病院先進救急医療センター、2008年 奈良県立医科大学附属病院感染症センター、2010年 市立奈良病院感染症科 医長。2012年から国立国際医療研究センター国際感染症センター、2018年 同センター国際感染症対策室 医長。2021年 大阪大学医学部附属病院感染症内科診療科長、大阪大学大学院医学系研究科感染制御医学講座(感染制御学)教授。

Clip.01“禍々しい影” 新型コロナウイルスとの遭遇
Clip.02治療法を模索し続けた医療者たちの奮闘
Clip.03ワクチンがもたらした効果 感染予防・重症化予防
Clip.04パンデミックとインフォデミック
Clip.05「感染症の時代に生きる」  医療体制をどうつくるか
Clip.06次のパンデミックに備えるために
Interview Noteインタビュー全文
Clip.01“禍々しい影” 新型コロナウイルスとの遭遇

一番最初にコロナの患者さんを見たのは(2020年)1月下旬で、中国人の旅行者の方だったんですね。当時、春節の前後で、結構、中国からたくさん旅行者が来られていて、50代ぐらいの男性の方だったと思うんですけど「武漢から来た」という人で、呼吸器症状があるということで、肺のCTを撮ってみると、普通のばい菌による肺炎とは違う影で、ウィルス性肺炎という肺全体に薄いすりガラスみたいな影が出るんですけど、それを最初に見た時にすごい気持ち悪い「禍々しい影」だなと思ったのを今でも覚えてるんですけど。成人の人のウイルス性肺炎ってそもそもあまり多くないんですよね。なので非常に珍しいですし、そういう方が結構元気にしている。あんまりその酸素の数値も下がってないし。でも肺はもう全体が白くなっていて…という、そのギャップがまずちょっとびっくりしましたね。 その後の「ダイヤモンドプリンセス号」に乗っていた方々は、私たちが診たのは主に外国人の方だったんですけど、高齢者の人が多くて。なので、そのダイヤモンドプリンセス号から来た患者さんたちは、結構みんな次々と重症化していって、決まってだいたい発症して1週間くらい経ったところから重症化していくんですよね。 一気に体の中の酸素が足りなくなって、肺炎が悪化するんですよね。肺が真っ白になって、人工呼吸管理が必要になるというパターンが多いですね。そこから人によってはさらに「凝固異常」といって、血が固まりやすくなったり、逆に出血しやすくなったりとかですね。そういうような状況が起こって、人によっては脳出血を起こしたり、あるいは肺塞栓を起こしたり、本当にこんな怖い感染症なんだなというのを思って。当時は治療法もなかったのでどうしようもなく、我々としても何か治療する方法があればいいんですけど、そういうのもないですし、自分たちももちろん感染する可能性がありますから。もちろん適切に感染対策はしているんですけど、それでもやっぱり、かなり怖かったですね。当時はですね。 その後、第1波が日本で始まって、次々と患者さんが来られましたので、第1波って一番最初の流行の時は、診られる病院が限られてたんですよね。感染症指定医療機関という、元々そういう指定感染症を診る病院だけで手分けして診るってことになったので、すぐ患者さんが退院しても、すぐ次の人が入るとか、あるいは満床なんだけど、どんどん入院要請があるみたいな感じで、本当に一番あの時が辛かったかもしれないですね。 診るスタッフも数に限りがありますし。その時は私がいた病院も、まだ全員でそのコロナを診るっていう体制にはなってなかったんですよね。感染症科で対応するっていうことになってたので、スタッフも限られているけど、どんどん患者さんは運ばれてくるという感じで。なのでかなり、なんというか…すごく日々、「これはもう、ただの悪夢なんじゃないか?」とかね。でも起きてもまた続いてるみたいな感じで。あれはつらかったですね。

Clip.02治療法を模索し続けた医療者たちの奮闘

新しい感染症が出て、全く情報がゼロのとこからでしたけど、すごい勢いでコロナに関する論文って、めちゃくちゃ毎週のようにたくさん論文が出てたんですね。なので、それはもう毎日のようにチェックして、何か新しい知見がないかというのは調べてましたし、ひょっとしたらこれが有効なのかもしれないみたいな治療薬があれば、それはもちろん病院の倫理審査を経て使用して、ということはやってましたね。 ただ、結局あの当時、有効性が示された、最終的に有効だとわかった治療薬って最初の頃はなかったですね。最初は「HIVの薬で効くんじゃないか」とか言われてたりとか、あとはヒドロキシクロロキンといって抗原病の患者さんに使ったりとか、あとマラリアの患者さんに使ったりする薬が効くんじゃないかっていう話がありましたけど、結局、後から効果はないと分かったんですけど、そういうのをちょっとでも効果がある可能性があるものがあれば検討するってことはやってましたけど。 第1波が終わった後くらいの時に、海外の研究で、ステロイドを使うとですね、重症化した人にステロイドを使うことで、その後の重症化を抑えられるんじゃないかという研究が出て、実際にそれは本当によく効いたんですよね。 コロナの重症化はそれで防げるんですけど、また別の副作用が起こったり、人によっては胃潰瘍を起こしたりとかですね、血糖がすごく高くなったりとか、結構いろんな副作用があるので、それはそれでちょっと管理が大変になったりはしたんですけど、でもだいぶ、患者さん、亡くなる人はかなり少なくなったかなと思いますね。 抗ウイルス薬のお薬があって、これもウイルス量を減らすことができるっていう効果が示された研究が出ましたので、その2つが使えるようになったので、ようやくなんとか、やりようがある状況が出てきたということで、それで少し安心したところはありましたね。

Clip.03ワクチンがもたらした効果 感染予防・重症化予防

ワクチンが最初に出たときは、だいぶ、精神的な負担も軽減したかなという感じですね。「重症化を防ぐ効果」があるというのはもちろんそうなんですけど、当初は「感染を防ぐ効果」も高かったんですよね。 最初は高齢者の方から接種が始まったんですよね。第4波はまだ高齢者の方でワクチンを打ってない人は感染する人はいたんですけど、もう第5波くらいになると、本当に高齢者の感染者が本当に極端に減ったんですよね。その第5波が落ち着いた後は、もうさっぱり感染者が出なくなったんですよね。3ヶ月ぐらい感染者が非常に少ない時期があって、これはワクチンの効果だと思うんですけど、本当に全然感染者も出なくなったということで、ワクチンすごいなというふうに実感したんですけど、ただその後、海外からオミクロン株という変異株が南アフリカから出現して、これはワクチンを打った人にも感染してしまう変異株だったので、ワクチン打っても感染をするようになってしまったので。だから「ワクチンを打っても意味ないじゃないか」という意見も出てきたんですけど、高齢者にとっては決してそんなことはなくてですね、やっぱり重症化を防ぐ効果、ワクチンはですから効果が2つあって、「感染を防ぐ効果」と「重症化を防ぐ効果」ですよね。感染を防ぐ効果は、これは下がってしまっているんですけど、重症化を防ぐ効果が保たれているので、特に持病のある人とか、高齢の人とかはやっぱり打つ意義があるんですよね。だから、重症化して運ばれてくる患者さんって、やっぱりワクチンを打ってない方が多かったんですよね。本当は打っていればこんなに重症化しなかったかもしれないのに、人工呼吸器をつけて重症化して、という方がいらっしゃったので、そこはなかなかご本人の考え方ももちろんあるので、仕方ないところではあるんですけど、やるせない感じはしましたけどね。

Clip.04パンデミックとインフォデミック

●パンデミック下の放送メディアを検証する 例えば、第1波が終わった後に、流行が少し落ち着いているときに「もう第2波は来ない」というようなことを、感染症の専門の方ではないですけど、そういう方がメディアに出てですね、ワイドショーとかに出て、「第1波の後で、みんな免疫を獲得したからコロナはもうこれ以上流行しない」というのを2020年ぐらいにおっしゃっていて、メディアもそれを本当に真面目に捉えていて放送しているんですよね。もう私、それ見てびっくりしましたけど。 メディアの人も、「この人は専門家で、○○大学の教授だからきっと正しいことを言っているに違いない」って思って、全国放送でバーッと放送しちゃうんですよね。で、「もう第2波来ないのか」「じゃあもうみんな外に出よう」みたいな感じで間違った方向に行ってしまうんですよね。 こういうことが何度かあって、デルタ株の時もですね、「流行が収まっているのは、ウイルスたちが自然と消えていっているからだ」みたいな、ちょっとそういう理論を言ったりして、それがまた大々的に放送されたりとかですね。やっぱりメディアが見抜けないというか、何でもかんでも「またコロナの新しい情報が」…「これは放送しよう」みたいなですね。やっぱりそこはメディア側にもちゃんと判断できるリテラシーというものが必要なのかなというふうに思いましたね。 メディアだけで判断できないんだったら、ちょっと他の専門家の意見を聞いて判断するという方がやっぱりいいのかなと思いますけどね。 ●SNS情報の危険性と正しい情報の取り方 SNSもね、一番やっぱり問題だなと思うのは、SNSの世界って、例えば特定の考え方の人がいて、その人の投稿を見て「いいね」って押したら、そういう同じようなグループの人たちの投稿ばかりずっと出続けるようになるんですよね。 そうすると、「新型コロナウイルスは人工的に作られたもので、これは人類に滅ぼすためのものだ」とかですね。ワクチンも「ワクチンを打ったら5G通信で体を支配されるから打つべきじゃない」みたいなことが、本当にずっとそういう投稿を見ていると、本人も「そうかそうか」って思っちゃうんですよね。 なので、同じような意見ばっかりしか見えなくなっちゃうので、ずーっとそういう陰謀論にハマっちゃう人が増えたりとかですね。何ですかね、正しい情報源から情報を得るというのがやっぱり大事で、例えば、インフルエンサーでフォロワーが何100万人いるけど、間違ってることを言ってる人はいるわけですよね。 ですので、例えば国立感染症研究所であるとか厚生労働省とか、そういう公的な機関が発している情報をちゃんと得るということですよね。 で、やっぱり我々(医療者、研究者)もやっぱりそうしないといけなくて、例えばもう国立感染症研究所とかも、Xのアカウントとか作って、どんどん情報発信すればいいと思うんですけどね。やっぱりいろんな人にちゃんと情報が届くように、発信する側もやっぱり頑張らないといけないなとは思いますけどね。

Clip.05「感染症の時代に生きる」  医療体制をどうつくるか

結核とかマラリアとか、こういう昔からある感染症については、だいぶ数が減ってきてたんですよね。そういう意味で「感染症の時代は終わった」とか「感染症はもう怖くない」みたいな、そう言われることはありましたよね。 でも2000年代になってから、SARSというコロナウイルスの感染症が中国から世界中に広がってということがあったり、2009年にも新型インフルエンザ、当時「ブタインフル」って呼ばれてましたけど、そういう新型インフルエンザのパンデミックが起こったり、2010年代はエボラが広がったりとかですね。今度は「新興感染症」というものが数年に一度、世界で流行してということが起こるようになってきたので、ですので、逆にもう今は新興感染症の時代になってきてますから、新興感染症に備える体制というのがやっぱり必要なんだと思いますね。 医療体制でいうと、やっぱり感染症を診る体制というのはすごく脆弱だったんですよね。そもそも感染症専門医という人種はすごく少ないです。日本全国で2000人もいないぐらいの医師数なんですよね。その感染症専門医の中でも、日々感染症のことばかりやってる人ってさらに少ないので。ですので、そういう人たちだけで、そもそもこれだけの規模のパンデミックを見るのは不可能。一方で、他の診療科の先生たちもこういう新興感染症を診る準備ができていたかというと、できていなかったですし、教育も足りてなかったと思いますので、やっぱりそこがこう大きな問題だったのかなと思いますね。 やっぱり医療者全体の知識を底上げしていく必要があると思います。皆、もちろん医者は医学部卒業してるんですけど、昔はあんまり感染症のことを、すごく授業で学んだっていうのは、私もあんまり記憶がないんですよね。ですけど、やっぱりこういう時代ですから、すべての医療者が感染症の基本的な知識は持っておくべきですし、基本的な感染対策の考え方というのは身につけて使えるようになっておく必要がありますので、ですので、一部の感染症専門医だけ、そういうことができるようにするわけじゃなくて、医療者全体を底上げして、次のパンデミックに対応できるようにしておく必要があるかなと思いますね。

Clip.06次のパンデミックに備えるために

われわれ医療者からすると「どれだけコロナで亡くなる人を少なくできたか」っていうのがやっぱり一つの基準にはなると思うんですけど、そういう「亡くなった人の数」を人口あたりで比べてみると、例えばアメリカとかイギリスとかと比べると、6分の1とか7分の1なんですよね。なので、亡くなる人に関しては日本は非常に少なくて、しっかり対応できたというふうに言えるかと思うんですけど、「そのために日本はどうしてきたか」っていうと、かなり緊急事態宣言とかも何度も出されて、感染の広がりをしっかり抑えてということをやってきましたので、例えば緊急事態宣言とかで、人の移動が、往来がなくなって、例えばお店の経営がうまくいかなくなって、一つは自殺者が増えたとかですね、そういうようなことも言われてますし、あとは人と人との接触が減ってますから、「そもそも結婚する人も減って少子化が進んで」とかですね。あとはやっぱり子どもも学級閉鎖というか、学校そのものが緊急事態宣言中はもちろん学校も休みになっていましたので、やっぱり大事な時期を、あまり周りの友達とコミュニケーションをとれる機会が少なくなったりとか、あるいは先程言った自殺する人が増えてしまったりとか、やっぱり「何かを優先すると、何かが犠牲になってしまう」と思うんですよね。そのバランスをどこかでやっぱり議論をしておいた方がいいのかなとは思うんですけどね。 みんなが同じ考え方になる必要はなくて、いろんな考え方があると思いますけど、それを十分に拾い上げられているかというとそうではないと思いますので、まずはしっかりと拾い上げて、そのなかで「日本はこういう考え方でいくんだ」っていうのを、これはもう政治の話だと思います。もう我々医療者がどうこうということではないので、今は感染もある程度落ち着いている今だからこそ、しっかりと議論をしておいた方がいいのかなと思います。

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