Interview - 過去学び、今生きる -

新型コロナウイルスへの提言

パンデミックを“最小化” クラスター対策の役割
  • 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所
  • 応用疫学研究センター長、人材育成局 研究企画部部長(併任)
砂川 富正

感染症によるパンデミックが、いつ、どこで起きるのか、正確に「予測」することは難しいという。2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)、2009年の新型インフルエンザ、2014年のエボラ出血熱やデング熱の流行など、この四半世紀の間にも様々な感染症が発生したが、2019年に始まった新型コロナウイルス感染症はスペイン風邪以来の「100年に一度のパンデミック」として世界中で大流行し、人々をパニックに陥れた。そこで日本で2025年に設立されたのが、感染症危機に備える専門家組織「国立健康危機管理研究機構」だ。 米国の疾病対策センター(CDC)などをモデルに、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合。次のパンデミックにそなえるべく活動を始めている。その要となる、国立感染症研究所 応用疫学研究センター長の砂川富正氏に、これまでの新型コロナウイルス感染症対策の成果と課題を聞いた。

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沖縄県出身。1991年 琉球大学医学部医学科卒業、1998年 大阪大学大学院医学系研究科(小児科学)修了・医学博士、阪大病院小児科。1999年 国立感染症研究所「実地疫学専門家養成コース研修(FETP)」修了。2001年 横浜検疫所で感染症水際対策に従事。2002年 感染研感染症情報センター第1室主任研究官。2003年 WHO短期専門家として香港のSARS対策に参加。2004~2007年WHO本部出向(感染症サーベイランス・対応部門)。2013年 感染研感染症疫学センター第二室長。2021年 国立感染症研究所実地疫学研究センター長。2025年 国立健康危機管理研究機構国立感染症研究所応用疫学研究センター長、人材育成局 研究企画部部長(併任)。

Clip.01感染症を監視する “予測”と“対応“
Clip.02初期のクラスター対策はどう行われたか?
Clip.03オミクロン株で変化した感染対策
Clip.04変異株が出る度に 疫学調査で特徴を解明
Interview Noteインタビュー全文
Clip.01感染症を監視する “予測”と“対応“

公衆衛生分野の仕事をしていく中で、2013年度の頃からは感染症サーベイランス(監視)の担当を室長としてやっていましたので、その中で新しい感染症、新興感染症が出てきたときに、これをしっかり監視していくという役割はもちろんありました。 ただ、新興感染症としての新型コロナウイルス感染症というのは、最初は「よくわからない病気」として発生していますので、どちらかというとニュースベースであったりとか、WHOが発表する情報であるとか、こういったものを中心にモニタリング、監視をしていた形になっています。 いわゆるパンデミックを起こす病気として非常に注目されるのはインフルエンザであったりとか、また、かなり注目を浴びる新興感染症として、例えばエボラ出血熱とかそういったものがあるわけですね。いずれも「動物と人の接点」というか、そういったものが非常に多いところで発生する共通点がありますので、今回の新型コロナウイルス感染症の発生初期に、「(発生源は)海鮮市場」みたいな話があったと思うんですが、こういった話を最初に見たときに、いわゆる動物と人との接触、そういったところでウイルスが人の世界に入ってくる、いわゆる「スピルオーバー(異種間伝播)」という、そういったものが実際に起こった可能性はあるのかな?これはもしかすると、そういった意味では、ある種、典型的な新興感染症の発生の仕方をしているのかな?とは思っていました。ただ、これが人の間で持続的な感染という形で、いわゆるパンデミックの状況にまで至るかというところは、最初の状況からそれをすぐ判断できるものではないと。いわゆるリスク評価という言葉がありますけれども、いろいろな現象、事象が発生した際に、よくある我々の考え方としては、「一番楽観的な推移をすればこういう形で終わるかもしれない」「最悪の展開をたどればこういうふうになるかもしれない」、ただ「いまある情報の中で一番可能性が高いシナリオというのはこういうものだ」というあたりを考えて、幅を広げてリスクというのを考えていきます。なので、「これはもうすぐおさまる」とか、「これはもう絶対パンデミックになる」とか、そんなことは専門家は決めつけません。幅を持って、いずれのどんな事態にでも対応するという形で、「予測」もさることながら、とにかく「対応」する必要がありますので、いろんな情報を集めて準備をする、それが非常に重要で現実的な我々の仕事であったと思います。

Clip.02初期のクラスター対策はどう行われたか?

●「疫学調査」によるクラスター対策 新型コロナウイルス感染症の一つの特徴としては、症状がないけれども人に感染を起こす、ウイルスを出すような人もあったということもわかったりしていますので、いわゆる法律(感染症法)で、この感染症をしっかり位置づけて、患者さんをちゃんとピックアップできるようにするというところに至るまでは、なかなか情報もないところもありますので、この「新型コロナウイルス感染症とおぼしき人」を見つけて診断をしていく形で、その情報を集約していって対策に結びつけていくことが、最初の頃は行われていたことになります。 私自身が自分の仕事としてやっていたのが、初期は特にサーベイランス(監視)が中心だったんですが、むしろ私のこれまでの経験が、「疫学調査」であったりとか、人の調整とか、そういったところに強みがありましたので、それをやれという話になりました。実際に疫学調査の経験者とか、そういった人たちを網羅して、あとは感染管理の専門家の人たちも網羅をして、この大きな事例に対して調査をする、調査をすることで対応を図っていくことをやっていったわけです。 特に最初の頃に全国のいろいろなところで、非常に大きなクラスターが発生したときに、自治体の皆様が最初の頃はあまり慣れていなかったこともあって、我々が自治体の方々をサポートする形で現地の対応を一緒にやったところが、全国的にも北海道から沖縄までたくさんあったわけですね。その中で、いわゆるニュースにも出てくるような大きな事例を一つ一つ、できるだけ被害を大きくしないような活動を行っていくことをやっていました。クラスター対策というのは、「ヒトーヒト感染」で拡大していく新型コロナウイルス感染症への対応ということに基本的になりますので、患者さんがいた際に、この方の周辺の状況を、しっかり、それこそ“しらみつぶし”に見ていくという形で、接触者の確認であるとか、その人の行動履歴であるとか、こういったものも含めて、その感染の範囲というのをある程度見ていく形になっています。特に感染した可能性のある接触者に対しては、一定程度の期間についての行動の自粛であるとか、こういったことをお願いをしていくことで、自然に終息傾向になっていきます。これは考えてみると非常に単純なことなんですが、病気には潜伏期間というのがありますので、そこで次の人に感染しないような対策を、それぞれの方、あるいはグループであったりとか施設であったりとかとっていただくと、その潜伏期間を超えた新しい感染というのは起きなくなる形になります…でも、実際には起きるわけですね。起きるんですけれども、これがなぜ起きたのかということをまた調査をして調べて、こういうところにほころびがあったんだというところで、そこにまた対策をとっていく。それを本当に繰り返すことをしていくと、無尽蔵に広がっていくのではなく、終息傾向になっていっておさまる形になっていきます。これは特にワクチンとか、それから効果的な薬物、お薬がない状況の中では、こういう対応を、個々の患者さんの治療という意味ではなくて、集団である程度抑えるという点では、これしかなかなかやれることがないわけなんですが、それこそ昔のスペイン風邪の時代から、集会を制限するとか、できるだけ人に接触しないようにするとか、こういったことを丹念に繰り返して人々は対応してきたわけで、今も基本はあまり変わっていないというようなことですね。 ●保健所による「追跡調査」 成果と課題 多くの国は、接触者の調査、「コンタクト・トレーシング」と言ったりもしますが、その追跡調査は世界中の国で、特に初期はものすごく熱心に行われました。ただ、私、いくつか調べたりするなかでは、日本の保健所のようなきめ細やかな情報収集であったりとか、こういったところを割と長く実施したところはそんなに多くはなかったと思います。 日本国内の保健師さんたちであったり、保健所の取り組み具合というのは、そういったところでは、かなりプラスというかポジティブに機能したのではないかなと思うところです。 その一方で、これも率直に思うところなんですが、同じ精密さで、患者さんが増えていくなかでも、接触者調査とか追跡調査をやっていくことは、かなり労力を費やしてしまうことにもなるので、それは見極めもまた必要であったと思うところです。なので国によっては、電話で追跡をする人をとにかくかなり採用して、機械的に毎日連絡をする形のことをやって省力化を図ったケースもかなりあったと聞いています。そういった対応の方法というのも、日本国内でも行われましたし、実際そういう省力化も必要だと思います。我々は実際に追跡調査が行われた結果の情報を見ていましたので、例えば接触した人を、本当に遠く「接触したかもしれない」ぐらいな人まで追っかけ始めると、とてつもなく大変なわけですね。最初の頃はそれもいいかもしれないんですが、例えばこれをかなり確率が高いような「同居されている方」に絞るとか、何かそういうテクニカルな、工夫できる点というのもあったなと思うところです。 同じ(ウイルス)がまたパンデミックになるとは思ってはいませんが、非常に効果を上げたと思われる「接触者調査」「追跡調査」と、それからそれに係る人の労力とか、こういったものをよく把握をして、オンオフをつけるような、そういう情報を出していけるとよいのではないかなと思っています。

Clip.03オミクロン株で変化した感染対策

やはり総合的なところでいくと、オミクロン株が、かなり大きく流行してきたときというのは、やはりウイルスの圧倒的な感染というか、そういった状況は、かなり今までの私が対応してきたフェーズとはちょっと違うと思いました。なかなかそういったところで、特に疫学調査の担当ですので、その分野で何かできる部分は、かなり少なくなっていったと思っておりました。 たくさんの感染や、ウイルスが発生してくる状況のなかでは、ワクチンの開発であるとか、それから感染した人が重症化しないような薬剤の開発というものが、大きくインパクトを恐らく下げるというところで重要だと思います。そういった意味では、封じ込めを最初の時期は一生懸命考えてやっていくわけなんですけれども、だんだん後の時期になってくると、この感染症がどんな性質を持っていたりとか、特徴を持っていたりであるとか、こういったことをより分析していくとか、そういった形の対応になっていく。そういった節目もちゃんと認識しながらやっていく必要があると思っています。

Clip.04変異株が出る度に 疫学調査で特徴を解明

●変異株が出る度に 疫学調査で特徴を解明 ワクチンが出てきたことでの患者の発生に対するインパクトは、かなり大きかったと実感はしています。特に重症化を予防する点での有効性は、やはり我々、実際現場を見ている中ではかなりのものがあると思いました。ただ、その一方で、いわゆる「ブレークスルー感染」といって、ワクチンをしていた集団の中でも感染が発生する状況も見られた時期もあったりしましたので、そういったところもまた疫学調査をして、何が起こっているんだというあたりについて、知見を提供することはやっていったわけですね。 例えば、新しい今回のコロナの特徴は、変異ウイルス、変異株が次々に出てきて、これがどんどん入れ替わる。それまであったウイルスと入れ替わるという、そういう特徴がありましたので、新型コロナウイルス感染症とかSARS-CoV-2というふうに一緒くたに言いますけれども、その変異ウイルスの性質によっては随分違うものを我々は見ていて、それぞれの疫学的な特徴であったり、ウイルス学的な特徴に応じた対応というのが必要だと思うんですね。なので、少なくとも我々はその疫学的な情報をしっかり集めていくところが一つの大きな役目でもありましたので、「新しい変異ウイルスが出てきたようだ」と、それに対して、では「この変異ウイルスがどんな性質を持っているのか」というあたりを、ヒトの感染のパターンとか、こういったもので見ていこうと、我々は「深掘り調査」と呼んでいたんですけれども、何か事象が起きたときに「こういう空間だけれども感染が起こった」というものであるとか、「この感染の成立から次の感染の成立まで何日ぐらいの間隔があるのだろうか」というあたりもまた調べていくとか、ちょっとまた後の方になってくると、最初は子どもがかからないと言われていたのに、子どもが重症化するような情報というのが、オミミクロンの途中ぐらいから急に出てきたわけですね。そうすると、何か特徴的なことが起きているのか?というあたりを我々の方からいろいろなところに相談をして、「これを一緒に調べましょう」ということで調べて情報をとってきて、これを対策を出すという対応をとっていました。なので、それは変異ウイルス、変異株が出てきて、その置き換わりが進行していく状況が顕著になっていくなかで、デルタ株の頃ぐらいまでは割と封じ込めというのも非常に重要な活動であったんですが、徐々にその深掘り調査をやるようになっていって、「とにかく情報を全体に流すんだ」ということも、非常に重要な活動になっていったと思います。 ●ワクチン登場後の感染対策 様々な課題 新型コロナウイルス感染症が、いったん収まるというか、ウイルスはまだありますけれども、パンデミックとしては下火になっていく状況のなかで、いろいろな感染症に対して普通に使われていた定期接種の予防接種状況が、私はもともと小児科で働いておりましたので、それが低下していっているという現象に対しては、非常に心配をしております。 日本は、論文とかで見ると、なかなかワクチンに対しては抵抗感があるというか、パピローマウイルスのワクチンのあたりから、いわゆる「副反応だ」と断じてしまうというのも、実際はどうなんだという、もっと客観的な情報が必要だと私は思うところですので、メディアの方々もそこは注意深く対応していただけるといいなと思っています。おそらくは、かなり大急ぎで作成されていったコロナのワクチンのなかで、通常のワクチンのイメージがある方々にとってみれば、「ちょっと副反応が強いんじゃないか?」とか、いろいろな意見もあったと思うんですよ。ですがそこで「これは全体としては非常に有用なんだ」というようなことを後々知るわけですけれども、そのなかで、早くこれを分析して、またこれを早く還元していく、いろいろな国や研究者、関係者はそれに努めていたと思うんですけれども、この情報発信の仕方とか分析とか、もっと研究していく必要があるのではないのかなと思うところです。 ●次のパンデミックに備えるために 今回のコロナの一つの特徴というか、新興感染症の特徴の一つだと思うんですが、どちらかというと弱い立場の方々で、「弱い立場」というのは免疫状態とかそういったところにウイルスが向かうんだなというあたりは非常に感じたところで、いわゆる高齢者がコロナにかかって重症化したり亡くなったりするというのが非常に顕著に起きたりはしておりましたけれども、ともすればやはりそういった方をどうやって救うのかというあたりは大きなテーマでしたし、また、この感染を遮断するということで考えると、例えば、施設に入っている人たちが孤立してしまったりであるとか、よそからの人の出入りを町ぐるみで止めちゃうとか、こういったことというのがもう起きておりましたので、いわゆる「人の分断」みたいなところを呼んでしまうとか、そういったところは非常に厳しい病原体だなということをつくづく思っていました。 とても感染力が強いというところに特徴があって、それに対する対策をとるのであれば、やはり一定程度、行動の制限とか、個人の行動に対する介入みたいなことは行われざるを得ないのではないかなと思うので、ただ、そこに対していろいろな協力を求めていくような、「みんなでこれを乗り越えるんだ」という、国としてのメッセージとか、こういったところは非常に重要になってくるのではないかなと思います。 私の立場というか、あくまで疫学調査とか、それをベースにした封じ込めとか、ミティゲーション(被害の緩和)をやってきたという立場でいくとですね、日本のよいところ、きめ細やかな保健所の対応みたいなところを下支えしながら、かつ省力化できるようなものというのを考えていく必要があると思うところですね。そういった意味では、ちょっともっと努力しないといけないなと思います。

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